新月の夜という事もあって、森の中はひたすらに暗かった。
しかし、カンテラなどの明かりをもっていたら、〝見えてはいけないもの〟が見えそうで、逆にこの真っ暗な方がかえって怖くない気がした。
森に入って一時間近く。キルシュは獣道を歩んで森の奥へと進んでいた。
時折、木の枝に引っかかったりもするが、問題なく歩けている。
こうも暗くとも暗順応が働き、目が慣れるものだった。それに針葉樹の隙間から見える星空を見る限り、星たちは西の方向へ動いている。
あと数時間で空が白み、夜明けを迎えるだろう。
それを理解すると、なぜだがホッとしてしまい、キルシュはその場にしゃがみ込んだ。
「さすがに疲れたわ……」
家を出てから、ほぼ立ちっぱなしの歩きっぱなしでだった。
もう足が棒のようだ。膝も笑って力が入らなくなってきた。大都会で寮暮らしをするお嬢様にしては根性を出しただろう。ほんの少し自画自賛して、キルシュはその場に腰掛けた。
だが、そこで座ってしまった事が間違いだっただろう。
疲労から来る眠気は容赦無く襲いかかり、瞼が重たくなってきたのだ。
そもそも普段の生活では、日付が変わる前には確実に寝ているのだ。今の詳しい時間は分からないが、恐らく午前二時を過ぎたのではないだろうか。キルシュは瞼を擦って欠伸をひとつ。
(せめて陽が昇るまでは起きていよう……)
だが、もう一度立つ気力が湧かない。それに瞼は段々と持ち上がらなくなってしまった。国内屈指の心霊スポットだ。こんな場所で眠れるなんて自分の神経が意外にも図太いなんて自分でも心のどこかで感心してしまうが、体力的にもう限界だった。
(少しだけ、ほんの少しだけ……休もう)
すぐに起きるんだと自分に言い聞かせて。キルシュは、背を木の幹に背を預け眠りに落ちた。
それからどれ程の時間が経過しただろうか。
心地良い眠りを彷徨っていたキルシュは、どこか聞き覚えのある子どもの声に突如として叩き起こされた。
『おい、キルシュ起きろ!』
あの鳩──ファオルとの声と分かるが、キルシュは眠気に勝てず適当な相槌を打つ。
〝独りにしない〟なんて言っておきながら森に放置した。突然湧いて何事か。
『──っ! 起きろよ馬鹿!』
「もう何よ……」
キルシュが薄く、瞳を開けた時だった。
『おい、死